発想　主張　討議 発想　主張　討議 w w w . d e u t s c h l a n d . d e 2 0 2 2 年 4 月号 J P N w w w . d e u t s c h l a n d . d e 2 0 2 2 年 4 月号 J P N 日本語版 日本語版 より良い働き方 – 新しい発想 より良い働き方 – 新しい発想 持続可能な未来を切り拓くために 持続可能な未来を切り拓くために

論 説 より良い働き方—— 新しい発想 読者の皆様 パンデミックは人々の働き方の変化を加速しています。以前は少数の人々の特権 的な働き方だったホームオフィス、リモートワーク、ジョブシェアリング、コワ ーキングなどが、ドイツに限らず他の国々でも、ますます日常生活の一部になっ てきました。フラウンホーファー労働経済・組織研究所が、「労働·協働のデジタ ル化に向けた大実験がいま、ドイツ全土で進んでいる」と評するこの動きは、今 後どのように変化するのでしょうか。本誌では、ユッタ・アルメンディンガー・ ベルリン社会科学研究センター（WZB）所長がこのテーマに関する広範な見解を 表明し、ロベルト・ハーベック連邦経済気候保護大臣は、今後の社会の動きを展 望しています。また、フラウンホーファー研究機構はその“未来実験室”の扉を開 いて、技術発展で将来社会がどう変わるかを垣間見せてくれ、さらにラファエ ル・ラグーナ・デ・ラ・ヴェラ「飛躍的イノベーション機構」初代理事長は、イ ノベーションが目覚ましく飛躍する手助けをしています。 以上の本誌記事をお読みになり、共に未来を切り開いていきましょう！ 編集部 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

より良い 働 き 方 —— 新しい 発 想 06 数字・データ：労働市場、持続可能性、 イノベーション 08 インタビュー：ロベルト・ハーベック 連邦経済気候保護大臣、エコノミーと エコロジーの調和・両立について語る 12 ポートレート: Mowomind 社に見る「新しい働き方」 14 イントロ: 労働世界の急速な変化と社会に もたらす影響 20 ポートレート: Fintiba社に見る「ダイバーシティ」 22 26 28 32 インタビュー：ユッタ・アルメンディンガー ベルリン社会科学研究センター（WZB）所長 「新しい働き方」と「良き労働」について語る ポートレート: DB Schenker社に見る「ジョブシェ アリング」 エッセイ：ニューワーク運動の先駆者マルクス・ フェート、運動の起源と最新の展開について解説 ルポルタージュ: ドイツが支援するベナン共和国 の持続可能な農業 36 ポートレート: Alnatura 社に見る「パーパス」 38 ルポルタージュ: 未来技術を生み出すフラウンホ ーファー研究機構を訪問 46 特集: 未来の都市ではどんな風に住まい、働き、 暮らすことになるか 14 46 50 インタビュー：ラファエル・ラグーナ・デ・ラ・ ヴェラ「飛躍的イノベーション機構」初代理事長、 革新技術のブレークスルーについて語る 定 番コラム 03 論説 54 発行案内 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

国連の国際労働機関（ILO）は、幅広い 国連の国際労働機関（ ）は、幅広い 国連の国際労働機関（ ）は、幅広い 国連の国際労働機関（ ）は、幅広い 労働と社会の問題に取り組む機関である。 労働と社会の問題に取り組む機関である。 労働と社会の問題に取り組む機関である。 働きがいのある人間らしい仕事や社会保障 働きがいのある人間らしい仕事や社会保障 労働と社会の問題に取り組む機関である。 働きがいのある人間らしい仕事や社会保障 働きがいのある人間らしい仕事や社会保障 の実現といったILOの目標を、ドイツは の実現といった の目標を、ドイツは の実現といった の目標を、ドイツは 無条件で支持している。ドイツはまた、 無条件で支持している。ドイツはまた、 の実現といった の目標を、ドイツは 無条件で支持している。ドイツはまた、 ILOの第4位の拠出国で、執行機関である の第 位の拠出国で、執行機関である 無条件で支持している。ドイツはまた、 の第 位の拠出国で、執行機関である の第 位の拠出国で、執行機関である 最も新しい例は、2023年に施行される 年に施行される 最も新しい例は、 最も新しい例は、 年に施行される 年に施行される 最も新しい例は、 理事会の常任理事国。ILOの要求が実現した 理事会の常任理事国。 の要求が実現した 理事会の常任理事国。 の要求が実現した 理事会の常任理事国。 の要求が実現した 「サプライチェーン法」である。 「サプライチェーン法」である。 「サプライチェーン法」である。 「サプライチェーン法」である。 業種別スタートアップ 業種別スタートアップ 業種別スタートアップ 業種別スタートアップ 年 2021年 年 年 情報・通信技術 情報・通信技術 情報・通信技術 情報・通信技術 医療・ヘルスケア 医療・ヘルスケア 医療・ヘルスケア 医療・ヘルスケア 食品・栄養 消費財 食品・栄養/消費財 食品・栄養 消費財 食品・栄養 消費財 自動車・モビリティ・ロジスティクス 自動車・モビリティ・ロジスティクス 自動車・モビリティ・ロジスティクス 自動車・モビリティ・ロジスティクス 銀行・金融・保険 銀行・金融・保険 銀行・金融・保険 銀行・金融・保険 建設・不動産 建設・不動産 建設・不動産 建設・不動産 教育 教育 教育 教育 30.5% 10.6% 9.8% 6.6% 4.7% 3.7% 3.5% 出所 出所: www.deutschestartups.org 出所 出所 最低賃金 最低賃金 最低賃金 最低賃金 10.45ユーロ 10.45ユーロ 10.45ユーロ 10.45ユーロ ドイツでは 年 月から ドイツでは 年 月から 時間あたりの法定最低賃金が 年 月から ドイツでは 時間あたりの法定最低賃金が ドイツでは2022年7月から ユーロになる。最低賃金は 時間あたりの法定最低賃金が ユーロになる。最低賃金は 1時間あたりの法定最低賃金が 年 月 日に導入され、時給は ユーロになる。最低賃金は 年 月 日に導入され、時給は 10.45ユーロになる。最低賃金は ユーロとなった。見習いなど 年 月 日に導入され、時給は ユーロとなった。見習いなど 2015年1月1日に導入され、時給は ごく一部の例外を除き、すべての ユーロとなった。見習いなど ごく一部の例外を除き、すべての 8.50ユーロとなった。見習いなど 従業員に適用される。ドイツでは ごく一部の例外を除き、すべての 従業員に適用される。ドイツでは ごく一部の例外を除き、すべての 学校を卒業した人すべてに保証 従業員に適用される。ドイツでは 学校を卒業した人すべてに保証 従業員に適用される。ドイツでは されている職業訓練口で働く職業 学校を卒業した人すべてに保証 されている職業訓練口で働く職業 学校を卒業した人すべてに保証 訓練生については、最低訓練手当 されている職業訓練口で働く職業 訓練生については、最低訓練手当 されている職業訓練口で働く職業 が別途決められている。またドイツ 訓練生については、最低訓練手当 が別途決められている。またドイツ 訓練生については、最低訓練手当 には、法定最低賃金に加え、多くの が別途決められている。またドイツ には、法定最低賃金に加え、多くの が別途決められている。またドイツ 分野で労働組合と使用者の間で には、法定最低賃金に加え、多くの 分野で労働組合と使用者の間で には、法定最低賃金に加え、多くの 交渉された最低賃金がある。 分野で労働組合と使用者の間で 交渉された最低賃金がある。 分野で労働組合と使用者の間で 交渉された最低賃金がある。 交渉された最低賃金がある。 外国人 外国人 外国人 外国人 熟練労働者 熟練労働者 熟練労働者 熟練労働者 ドイツでは政府も経済界も、 ドイツでは政府も経済界も、 より多くの労働者が必要である ドイツでは政府も経済界も、 より多くの労働者が必要である ドイツでは政府も経済界も、 ことを認めている。そのため、 より多くの労働者が必要である ことを認めている。そのため、 より多くの労働者が必要である 移民法が改正され、ドイツで働く ことを認めている。そのため、 移民法が改正され、ドイツで働く ことを認めている。そのため、 ことを希望する外国人熟練労働者 移民法が改正され、ドイツで働く ことを希望する外国人熟練労働者 移民法が改正され、ドイツで働く の入国手続きを簡素化するポイント ことを希望する外国人熟練労働者 の入国手続きを簡素化するポイント ことを希望する外国人熟練労働者 制が導入された。同時に、就職 の入国手続きを簡素化するポイント 制が導入された。同時に、就職 の入国手続きを簡素化するポイント 希望者の高校・大学・職業学校 制が導入された。同時に、就職 希望者の高校・大学・職業学校 制が導入された。同時に、就職 卒業資格の認定が迅速・簡素化 希望者の高校・大学・職業学校 卒業資格の認定が迅速・簡素化 希望者の高校・大学・職業学校 され、職業資格取得を目的とする 卒業資格の認定が迅速・簡素化 され、職業資格取得を目的とする 卒業資格の認定が迅速・簡素化 滞在に関する制限も緩和されて され、職業資格取得を目的とする 滞在に関する制限も緩和されて され、職業資格取得を目的とする いる。将来的には、ドイツで働き 滞在に関する制限も緩和されて いる。将来的には、ドイツで働き 滞在に関する制限も緩和されて 出してから 年～ 年後に帰化 いる。将来的には、ドイツで働き 出してから 年～ 年後に帰化 いる。将来的には、ドイツで働き 出してから3年～5年後に帰化 出してから 年～ 年後に帰化 できる可能性もある。 できる可能性もある。 できる可能性もある。 できる可能性もある。 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

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としては企業がそのチャンスを活かせるよ う、経済的枠組み条件の整備や公共投資か としては企業がそのチャンスを活かせるよ ら、狙いを定めた助成措置まで最大限の支援 う、経済的枠組み条件の整備や公共投資か を行います。 ら、狙いを定めた助成措置まで最大限の支援 を行います。 経済とともに労働のあり方も大きく変化するこ とが予想されます。典型的なブルーカラー、例 経済とともに労働のあり方も大きく変化するこ えば石炭採掘場の油圧ショベル運転手であると とが予想されます。典型的なブルーカラー、例 か、自動車用排気管メーカーの現場労働者は、 えば石炭採掘場の油圧ショベル運転手であると 将来どこで働いたらよいのでしょう。 か、自動車用排気管メーカーの現場労働者は、 新しい事業モデルとテクノロジーは気候中立 将来どこで働いたらよいのでしょう。 的経済繁栄だけではなく、多くの魅力的な職 新しい事業モデルとテクノロジーは気候中立 場も生み出します。もちろん根底的な経済構 的経済繁栄だけではなく、多くの魅力的な職 造改革の結果として、一部の職業は消えてい 場も生み出します。もちろん根底的な経済構 くことになるでしょう。しかし、それと並行 造改革の結果として、一部の職業は消えてい してまったく新しい職業が生まれ、見合った くことになるでしょう。しかし、それと並行 技能を有する人材の需要も通常高まります。 してまったく新しい職業が生まれ、見合った 現在すでに見られるように、地域や業界によ 技能を有する人材の需要も通常高まります。 って専門人材の余剰と不足が矛盾したことに 現在すでに見られるように、地域や業界によ 同時発生する可能性はありますが。いずれに って専門人材の余剰と不足が矛盾したことに せよ最大の課題となるのは、将来必要とされ 同時発生する可能性はありますが。いずれに なくなる職業に就いているひとたちを、それ せよ最大の課題となるのは、将来必要とされ ぞれの能力に応じてなるべく早期に再教育 なくなる職業に就いているひとたちを、それ し、他の新しい仕事に従事できるようにする ぞれの能力に応じてなるべく早期に再教育 ことです。従って、継続教育と能力開発が非 し、他の新しい仕事に従事できるようにする 常に中核的な意味をもつようになります。 ことです。従って、継続教育と能力開発が非 常に中核的な意味をもつようになります。 人口動態変化に鑑みて、消滅していく生産分野 の就労者を再教育するだけで、労働市場の需要 人口動態変化に鑑みて、消滅していく生産分野 を満たすことができますか。 の就労者を再教育するだけで、労働市場の需要 将来予測に不確定要素は付きもので、話が遠 を満たすことができますか。 い未来のことになればなるほど不確実性は増 将来予測に不確定要素は付きもので、話が遠 すものです。もっとも、生産年齢人口の推移 い未来のことになればなるほど不確実性は増 予測は比較的信頼性が高く、ある年生まれの すものです。もっとも、生産年齢人口の推移 ひとたちの数を把握することで、数十年後に 予測は比較的信頼性が高く、ある年生まれの 労働市場に参入する人口もおよそ弾き出すこ ひとたちの数を把握することで、数十年後に とができます。連邦政府はそうした統計を基 労働市場に参入する人口もおよそ弾き出すこ に、将来ドイツではより多くの移民労働力が とができます。連邦政府はそうした統計を基 必要になると見ており、移民法の改正にも着 に、将来ドイツではより多くの移民労働力が 手する予定です。 必要になると見ており、移民法の改正にも着 手する予定です。 ブルーカラーからホワイトカラーに話を移す と、コロナ下で在宅勤務やリモート会議など、 ブルーカラーからホワイトカラーに話を移す 様々な「新しい働き方」が急速に普及発展しま と、コロナ下で在宅勤務やリモート会議など、 した。こうした新しい勤務形態は気候保護の観 様々な「新しい働き方」が急速に普及発展しま 点から見て、どのような意味をもちますか。 した。こうした新しい勤務形態は気候保護の観 どんな仕事も在宅勤務にシフトできるわけで 点から見て、どのような意味をもちますか。 はなく、これは将来も同じだろうと思いま どんな仕事も在宅勤務にシフトできるわけで す。それでもパンデミック下ではっきりした はなく、これは将来も同じだろうと思いま のは、いざとなれば現在すでにどれだけ多く す。それでもパンデミック下ではっきりした のことが可能かということです。在宅で働く のは、いざとなれば現在すでにどれだけ多く ひとが増えれば、それは多方面に影響を与え のことが可能かということです。在宅で働く ます。今回とりわけ目立ったのは、通勤によ ひとが増えれば、それは多方面に影響を与え ます。今回とりわけ目立ったのは、通勤によ ロベルト・ハーベック 連邦副首相兼経済気候保護相 ロベルト・ハーベック ハーベックは1969年、北ドイツ の町リューベックに生まれた。 連邦副首相兼経済気候保護相 2009年、緑の党議員として ハーベックは1969年、北ドイツ シュレスヴィヒ＝ホルシュタイン の町リューベックに生まれた。 州議会入りを果たし、12年 2009年、緑の党議員として 同州政府副首相就任。18年には シュレスヴィヒ＝ホルシュタイン 同職を退き、アナレーナ・ 州議会入りを果たし、12年 ベアボック現連邦外相とともに 同州政府副首相就任。18年には 緑の党の共同党首を務めた。 同職を退き、アナレーナ・ ベアボック現連邦外相とともに 緑の党の共同党首を務めた。 る道路の渋滞や出張の激減でした。車で毎日 通勤するひと、飛行機で出張に出かけるひと る道路の渋滞や出張の激減でした。車で毎日 が減るなら、それは当然気候保護への寄与と 通勤するひと、飛行機で出張に出かけるひと なります。 が減るなら、それは当然気候保護への寄与と なります。 ドイツ経済は「新しい働き方」をどれほど重視 していますか。ただのスローガンだけでなく、 ドイツ経済は「新しい働き方」をどれほど重視 実質的な取り組みを行っていますか。 していますか。ただのスローガンだけでなく、 企業は最良の人材の熾烈な獲得競争にさらさ 実質的な取り組みを行っていますか。 れていますから、できるだけ魅力的な雇用主 企業は最良の人材の熾烈な獲得競争にさらさ であるための努力を惜しみません。そこには れていますから、できるだけ魅力的な雇用主 当然、柔軟な働き方を認めることも含まれま であるための努力を惜しみません。そこには す。今日すでに多くの専 当然、柔軟な働き方を認めることも含まれま 門人材が、引く手あまた す。今日すでに多くの専 で思いのままに仕事を選 門人材が、引く手あまた べる恵まれた立場にあり で思いのままに仕事を選 ます。彼らの一部は給料 べる恵まれた立場にあり ばかりでなくもっと多様 ます。彼らの一部は給料 な観点、例えば気候保護 ばかりでなくもっと多様 や持続可能性も会社選び な観点、例えば気候保護 の基準にするでしょう。 や持続可能性も会社選び ですから気候保護という の基準にするでしょう。 テーマに真剣に取り組む ですから気候保護という 企業は、人材獲得競争に テーマに真剣に取り組む おいても優位に立つこと 企業は、人材獲得競争に ができるわけです。 おいても優位に立つこと ができるわけです。 最後に“水晶占い”まがいの 質問をひとつ。2030年の 最後に“水晶占い”まがいの ドイツ経済はどうなってい 質問をひとつ。2030年の ると思いますか。 ドイツ経済はどうなってい はっきりしているのは、 ると思いますか。 私たちが今後何カ月、何年をどれだけ有効 はっきりしているのは、 に活用して行動するかが、2030年のドイツ 私たちが今後何カ月、何年をどれだけ有効 経済の状況を左右するということです。気 に活用して行動するかが、 年のドイツ 候保護は私たちに成長の機会を与えてくれる 経済の状況を左右するということです。気 チャレンジであり、ようやく本格化する活動 候保護は私たちに成長の機会を与えてくれる に対する幅広い層の支持と参加意欲を、私は チャレンジであり、ようやく本格化する活動 いま実感しています。同時にもうひとつ忘れ に対する幅広い層の支持と参加意欲を、私は てならないのは、遅くとも20年代半ばには、 いま実感しています。同時にもうひとつ忘れ 人口構成の変化による大課題が労働市場で顕 てならないのは、遅くとも 年代半ばには、 在化するということです。無策でいればこの 人口構成の変化による大課題が労働市場で顕 問題は、ドイツ経済の成長可能性を減退させ 在化するということです。無策でいればこの ることになります。われわれは社会的エコロ 問題は、ドイツ経済の成長可能性を減退させ ジカル市場経済の名において、優れた問題打 ることになります。われわれは社会的エコロ 開策を見つけなければなりません。三党連立 ジカル市場経済の名において、優れた問題打 協定は、そのための正しい道筋を指し示して 開策を見つけなければなりません。三党連立 います。 協定は、そのための正しい道筋を指し示して います。 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

すでに現実となった選択肢：出勤せずに「リモートワーク」 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

いま私たちは第4次産業革命の真った だ中にいる。ネットワーク化·デジタル化が労 働世界をかつてなく大きく変貌させ、消えて いく職業があるかと思えば、新しい職業が誕 生し、国際競争にさらされた企業は組織をス リム化していく。働く人々の多くも、自身の 労働のあり方について深く考えをめぐらすよ うになり、これから自分はどんなふうに働き たいのか、仕事は自分の人生にいかなる位置 を占めるのかを自問している。変化をこれほ どまでに加速させたのは、明らかにパンデミ ックであり、コロナ以前はごく限られた人々 の特権でしかなかった働き方が、いまや標準 となりつつある。新しい労働世界のキーワード は、「在宅勤務」ないしより広義の「リモート ワーク」、「ワークシェアリング」、「コワー キング」、そして働くことの意味を問う「パー パス」だ。フラウンホーファー労働経済·組織 研究所（IAO）によれば、「労働・協働のデジ タル化に向けた大実験がいま、ドイツ全土で 進んでいる」。 モビリティや都市化への影響 こうした動きは、他のメガトレンドで ある都市化やモビリティにも影響を及ぼさず にはいない。「今後はたまにしか出勤しない ひとが増え、職場へ行くのは明確な意図があ ってのことになるだろう。すると田舎で暮ら し働くことも、多くのひとにとって再び魅力 的な選択肢となりうる」と、フラウンホーフ ァーIAOのシュテファン·リーフ組織開発·労働 設計部長は予測する。しかし、物流大手DBシ ェンカーの人事担当役員カタリーナ·ラートも 指摘するように、これは万人に当てはまる予 測ではない。同社では「従業員の三分の一が D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

新しいトレンド：「ライフ」と「ワーク」を結びつける 新しいトレンド：「ライフ」と「ワーク」を結びつける 「新しい 働き方は ひと通りでは なく多数あって、 個別の状況に 応じた調整· 必要となる」 実装が 「新しい 働き方は ひと通りでは なく多数あって、 個別の状況に 応じた調整· 必要となる」 実装が D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

DIVERSITY F I N T I B A バスティアン・クリークホッフと社員 「ダイバーシティは私たちのDNAに組み込まれています」。2016年フランクフル ト・アム・マインにフィンテック・スタートアップ企業「フィンティバ」を創業し た経営者のバスティアン・クリークホッフは自社従業員についてこう語る。「フィ ンティバ」は、ドイツの大学で学ぶEU域外からの留学生をサポートする企業だ。 「留学生の出自や肌の色、性別、宗教などは全く問いません」とクリークホッフは 言う。「留学生がドイツに滞在するにあたって必要とされるビザの申請、銀行口座 の開設、健康保険等の加入手続き代行など、多くのサポートを行っています」。ク リークホッフはインドネシアの大学で学んだ時、留学生が外国でぶつかる困難を身 をもって知った。卒業後ドイツ銀行の中国支店で働いた経験が大きく実ってのちに 「フィンティバ」創業に至ったという。同社の大きな強みは、15カ国出身45人の国 際色豊かな従業員による豊富な多言語対応力と異文化間交流知識だ。「これまでに 当社がドイツで暮らす上での障害を除いたり一人一人に合った問題解決をしてきた 外国人留学生の数はすでに、約190カ国出身15万人以上に上っています」。

ユッタ·アルメンディン ガ ー 「二者択一思考はきっぱり放棄すべき」 ベルリン社会科学研究センター（WZB）のユッタ・アルメンディンガー 所長は、コロナ禍が始まるずっと前から変容する労働環境を研究して きた。変化を長く観察する社会学者の視点から、「New Work」や 「良き労働」について語ってもらった。 インタビュアー： カルステン · ハウ プトマイヤ ー アルメンディンガー教授、「New Work」という 言葉を聞いて、多くのひとが真っ先に思い浮かべる のはおそらく在宅勤務ですが、これは「新しい 働き方」のイメージとして正当でしょうか。それとも 製造業などを度外視しているという意味で、 ミスリーディングな偏った見方ですか。 どちらも一理ありますね。在宅勤務は確かにパン デミック下で一大ブームとなりました。自宅で基本 的にできる仕事をもつひとたちの多くが、もう何カ 月もほとんど出勤していないという状況だと思いま す。それは私自身もまさに経験しているところ で、WZBの多くの研究者がいまは在宅で大半の 仕事をこなし、研究室に顔を出すのは会食やただ 雑談するためなのです。これはまったく新しい事態 で、事務局長と私はWZBをこれまでとは違った方 法で運営する必要に迫られました。研究センター の活力を維持するには、仕事のオーガニゼーショ ンを柔軟化し、より多くの資源、膨大な量のコミュ ニケーションを投入しなければなりません。でもこ こで要注意なのは、在宅勤務者がドイツの勤労者 全体に占める割合は、たかだか25パーセントにす ぎないということです。誤解されがちですが、それ 以外の多数派は引き続き、工場や病院、介護施 設、スーパーマーケット、デパート、レストランや農 場など、それぞれの持ち場で働いているわけです。 「新しい働き方」をどのように定義しますか。 伝統と決別する方向のあらゆる労働環境変化 をまとめた概念として、私は使っています。 そこには在宅勤務だけでなく、例えば介護現 場におけるロボットと人間の協働であると か、高度に自動化された製造業の作業工程、 デジタルプラットフォーム労働などもすべて 含まれます。また、変化するのは仕事内容·課 題だけではありません。仕事の新しいオーガ 「大抵の ひとは 収入より、 意義のある 仕事が できること を重視す ナイズ方法、それに伴うより弾力的な管理·指 導も必要となってきます。 WZBは「良き労働」も研究テーマとしていますが、 「良い」と呼べる仕事のあり方とはどんなものです か。 「良き労働」には様ざまな定義があります が、WZBはドイツ労働総同盟の指標をベース にしています。同指標によりますと「良き労 働」を特徴づけるのは、十分な資源、仕事を 通じての成長可能性、適正な賃金、雇用の安 定性、共同決定権などです。 WZBの調査結果でも明らかなように、大多数の ひとは働くことを間違いなく重要だと考えているわ けですが、人々が自分の仕事に意味を認めるのはど んな条件下においてですか。お金やワークライフ バランスがそこで果たす役割は？ 大抵のひとは収入よりも、自分を評価してく れる環境で意義のある仕事ができることを重 視します。WZBと週刊新聞『Die Zeit』、応用 社会科学研究所（infas）の共同調査でも、そ れがはっきり示されています。お金を稼ぐ必 要がないとしても、自分は働きに行くだろう と答えたひとが多数に上ったのです。また同 調査によれば、とくに子育てや家族の介護を しているひとにとっては、仕事と家庭の両立 が突出して重要な意味をもちます。キャリア を大事だと思っている若い世代でも、仕事だ けに身を捧げるつもりはなく、私生活のため の時間も欲しいと考えるひとが少なくありま せん。 「良き労働」への期待のあり方に、世界的な違いが ありますか。 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

に必要とされています。具体策としては例え ば、勤労者を助言し、最新情報を提供する専 門家を大幅に増員すべきです。キーワードは 予防で、失業するのを待って初めて再教育を 施すのではなく、先を見越して働くひとの知 識·技能に継続的な投資を行います。病気の予 防検診をイメージするとわかりやすいと思い ます。医療の世界では、すでにそれが一部う まく機能しているわけです。 労働世界のこのところの変化は、コロナ·パンデミッ クと不可分に結びついています。コロナ勃発年が 終わろうとする2020年12月、「ウイルスが抑え 込まれるや否や、ほぼすべては元に戻るだろう」と 日刊紙『Frankfurter Allgemeine Zeitung』 に寄稿されました。いまもこの見方に変わりはあり ませんか。 新しい労働形態を次々と生み出しているの は、基本的にデジタル化とテクノロジーの発 展である、と私は考えています。パンデミッ クはこの流れを加速しただけです。加速現象 はドイツでも歴然としていますが、本来は社 会技術的進歩への抵抗感の強い国です。です から私はいまも、自分の予測通りコロナ後の 世界で人々がまた出会い、対面で話し、互い に好奇心を抱いてくれることを心から願って います。 パンデミック下でいまは多くのひとが、在宅勤務や リモート会議に明け暮れていますが、コロナ後も 残るのはそのうち何でしょうか。それとも人々が 再び、オフイスに集まって働くようになることが 望ましいですか。 そうした二者択一思考は、きっぱり放棄すべ きです。職場で過ごす時間は本質的に重要で あり、オフィスや現場は昔もいまも、人々が 集まり共に時を過ごす極めて重要な場所で す。それは社会の連帯を保つために、守られ ねばならない場所なのです。多くのことが将 来は柔軟化·デジタル化·分散化の方向へ変化し ていくでしょう。しかし、物理的な場所の共 有を失うことは、最終的に私たちの国の社会 的結束を危うくしかねません。 パンデミックが働く人々に与える影響には、個人差 もかなりあります。在宅でまったく問題なく働ける ひとたちがいる一方で、例えば子供のいる家庭の、 とりわけ母親の負担が非常に大きくなっています。 パンデミック下の労働がもたらす社会的影響は？ 影響は大変深刻で、不満やストレス、孤独感 が増大しています。在宅で働くひとと、職場 で働くひとの間の社会的格差が広がったほ か、テレワークに従事するひとたちの間に も、様ざまな格差が見られます。設備の整っ た静かで邪魔の入らない環境を確保できるひ とは、仕事に集中できるので、在宅勤務には 狭すぎるアパートに暮らし、収入も少なく、 育児や両親の介護をしなければならないひと たちとは、まったく違う生活が送れるわけで す。 パンデミック下で、仕事と私生活の境界が曖昧に なる傾向も強まったのではないかと思われます。 両者を区別することは依然重要なのか、それとも 古い考え方でしょうか。デジタル化の進む世界で、 そうした区別はそもそも可能ですか。 もう一度申し上げますが、それは勤労者中の 少数派の問題でしかありません。仕事に対応 しなければならない時間に関する明確なルー ルを、そのひとたちは大変重視します。でも 一般論として、休息時間は誰もが自分で選択 できるのでなければなりません。さもないと バーンアウトは必至です。 ユッタ·アルメン ディン ガ ー 教 授 多数の受賞歴をもつ著名な社会学者アルメン ディンガーは、2007年からベルリン社会科学 研究センターの所長を務めるとともに、フン ボルト大学教授として教育社会学·労働市場 研究を講じる。それ以前は、労働市場・職業 研究インスティテュート（IAB）の所長などの 要職を歴任。ドイツだけでなくアメリカでも 研究生活を送った。 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

素晴らしい新労働世界 「ニューワーク」という概念は、1980年代に社会主義・共産主義に 対抗するモデルの構築を試みたドイツ系アメリカ人社会哲学者 フリットヨフ・ベルクマンに由来する。「ニューワーク」理念とその影響 について、近年の新しい「ニューワーク運動」の先頭に立つ社会学者 マルクス・フェートが、エッセーで解説する。 数年前、イギリスのテレビでドイツ人芸人が 舞台でジョークを披露しているCMを見たことが ある。必死で喋り捲るが、笑う人は皆無。よう やく幕が下りて画面に「Germans are not famous for their humour – but for their cars（ドイツ人はク ルマでは有名だが、ユーモアではそうではない ね）」との字幕が浮かび出た。よくできたジョ ークは大抵そうだが、ここでも現実が面白くか らかい半分に暴き出されている。ドイツ人はま た、何事も徹底してやることで有名、というより はむしろ悪名高い。それは、「Grundreinigung」 （徹底洗浄）なる奇抜な言葉がドイツ語に存在す るのを見ても納得できるだろう。 ドイツでは近年、「ニューワーク」と呼ばれ る現象が熱心に吟味され、試験台に乗せられ、 盛んに議論されているが、もしかしたらその根 底には、こうしたドイツ人の徹底主義とユーモ ア不足ミックスの生真面目さ、加うるにドイツ 人特有のワークメンタリティが潜んでいるのか もしれない。よその国の人は、「生きるために 働いている」と言われるが、われわれドイツ人 の場合「働くために生きている」という印象を 抱かせることが少なくないようだ。彼らは「働 くために生きる」と考えている、だからがむし ゃらに働くのだろう、と。ドイツでははじめ、 産業資本主義とプロテスタントの労働倫理は一 つに溶けあっていた。資本主義に潜む底知れな い歪みと限界を解き明かす作業にいち早く取り 組んだのがカール・マルクスとフリードリヒ・ エンゲルスである。「ニューワーク」運動の創 始者である社会哲学者のフリットヨフ・ベルク マンも、幼少期にオーストリアに移住したが、 生粋のドイツ人。オーストリアのハルシュタッ トで青年期を過ごした後、1949年にアメリカに 移住。転々と職を変えながらほそぼそと暮らし を立て、大学で哲学を修め、ようやく1958年に ミシガン大学で哲学教授ポストを得た。1999年 に退職して名誉教授となってからも、精力的に 活動を継続。世界中を回って、各地にニューワ ーク運動を広めるための研修センターを開設 し、亡くなるまで労働政策や哲学上の問いに対 する考えを発表し続けた。 社会ユートピア的理念 「ニューワーク」は、言うなればヨーロッパ 哲学の産物である。決して経営者や心理学者、 企業コンサルタントの手になるものではなく、 人間が労働のためにあるのではなく、労働が人 間のためにあるようなユートーピア社会を実現 しようと考えた一社会哲学者によって創出され た。ユートピア社会では、「本当に心からやり たいと思う」仕事を探したり、見つけたりでき るとされる。一言付け加えるならば、従来の労 働哲学を大転換させる「本当にやりたいと思う 仕事をしたい」という権利・主張は、ニューワ ーク概念が今日いろいろ誤解される要因となっ ていると言えよう。 ニューワークを正しく理解するためには、ベ ルクマンという人物をよく知らなければならな い。ナチスに迫害にされた一家は、母親が自殺 を装うことで、命からがらオーストリアに逃げ た。辛苦に満ちた体験は若いベルクマンの心 に、世界をより良いものにしたい、他律的・全 体主義的社会と戦いたいという願いを育んでい った。ベルクマンはフリードリッヒ・ヘーゲル の「自由の哲学」の研究に没頭し、その成果を まとめて博士号を取得。「人間的欲望の本質は 自由である」とするヘーゲル哲学の基本理念 を、そのまま労働の世界に当てはめていく。自 律的に生き、意義のある仕事をし、自分に合っ た職業を自由に選ぶことができるのが理想的な 社会と考えるベルクマンにとって、個人の社会 参加、環境の持続可能性も極めて重要な課題だ った。将来を予見する能力に長けていたベルク D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

ベルクマンから 憲章まで連綿と 受け継がれた ニューワークの ポイントは、 人間らしく生き、 意味ある仕事を 探す自由にある はなく、一個人として、また勤労者として、 自由に行動し、責任を担おうとする意欲が低 下してしまいかねない。確かに、自宅のソフ ァに座ってオンラインで映画を楽しんだり、 会社にいる時は自分の狭い守備範囲から足を 踏み出さないようにしている方が安全だろ う。不安に満ちた社会では、「安全・安定」 こそが行動の最強の動機となるのだから。し かし、安全を手に入れるために自由を手放せ ば、結局は自由と安全の両方を失うと、ベン ジャミン・フランクリンも言っている。 ということで、ニューワークの社会ユート ピア風メッセージが̶̶新しい意味におい て̶̶息を吹き返すことはあり得るだろう。た だし、ここで確認しておきたい重要な点は、人 間の行動の根本的な動機である自由と責任の追 求を、労働の領域のみに限定しては ならない。責任能力のない未熟で、 不安の充満した社会では、“本当にや りたいと思う仕事“はのびのび栄えよ うがない。それゆえニューワーク は、「ニューソサエティ」の実現を 要請する。自由、自己責任、社会的 責任等の価値を重視し、公共の利益 を促進し、教育を改革し、自らをポ ジティブで革新的な社会と認識し得 る社会が、「ニューソサエティ」で ある。 現状がそのような理想的状態から どんなにかけ離れているかは、昨今 の議論を見れば明らかだ。パンデミ ックで野火のように広がったホーム オフィスや、ただ単に新しい家具を 入れたり職場の模様替えをすること を、ニューワークの実践と言えるだ ろうか。そうした業務上のちょっと した変化を安易にニューワークとし てしまうのは、無意味なだけではな い。社内に専任の活動チームを作 る、企業の垣根を超えた幅広い人脈 を形成する、社員一人ひとりの価値 を見直すと共に、社内の上下関係、指導スタ イル、協力体制などの改善を目指すなど、ニ ューワークを実践しようとする多くの真剣な プロジェクトの評判を落としかねない。ニュ ーワークは、ベルクマンのユートピア的アプ ローチから多くの面で離れはしたが、何かし ら新しいものに、変貌を遂げようとしてい る。労働の本質を人間にとってより良いもの にするため、ニューワークにチャンスを与え ようではないか。ニューワークは、労働世界 に大変革を起こすきっかけとなり得るだけで はなく、社会に生きるわれわれが自信を持っ て未来を見つめ、チャンスを掴みとり、遠い 将来にまでより良い世界を残す手助けをして くれるだろう。大いに努力する価値のある目 標ではないだろうか。 は妨げになる。そのため、2019年、理 論家と実務家両方の思考の手助けとな る「ニューワーク憲章」が策定され た。社会ユートピア的理想と現実の経 済活動、やりたい仕事をするという労 働の基本的考え方と企業組織の必須要 件、これらを調和させることを憲章は 目指している。これを、ニューワークを後押し すると見るか、逆に理念に逆行すると見るか、 見方は様々だろう。 それはともかく、ベルクマンから憲章まで 連綿と受け継がれたニューワークの最重要ポイ ントは、人間らしく生き、意味ある活動をする ためには、人間は自由でなければならないとす る点にある。個人も企業も社会も等しく、持て る自由を存分に生かして、自ら招いた未成年状 態の軛を解き放ち、より良き未来を目指す思想 に沿って大胆に自己を発展させていかなければ ならないとするニューワークの思想は、啓蒙思 想の教えそのものと言えよう。 しかし世界を見渡すと、希望に満ちた将来 像は希少化してきた。もしかしたらそれが、 今日ニューワークが抱える大問題の一つなの かもしれない。気候変動への不安、パンデミ ック疲れ、紛争が増加し複雑化の一途をたど る世界に対する強い危機感など、現代は明る い将来像を描きにくくなっている。このまま では、社会的自由の維持が危うくなるだけで マルクス・フェートは、ドイツにおけるニューワーク運動 リーダーの一人。「ニューワーク憲章」の起草者の一 人であり、ニュルンベルク工科大学で非常勤講師とし てニューワークおよび組織発達論を教える。 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

モハメド・アワリ＝ ジブリール（中央） は農民、太陽パネル 販売会社BRCE、 ドイツのGIZ3者の つなぎ役だ 乾燥の季節でも 豊かな収穫： ソーラーポンプシス テムは農作物の生産 コストを大幅に 下げた ここアフリカの国ベナン共和国北部は空気 が乾燥していて埃っぽく、太陽は雲に隠れて 姿が見えない。サハラ沙漠からの季節風、ハ ルマッタンが吹いている。気温は夜間に摂氏20 度以下に下がり、この数カ月間雨が一滴も降 らないので、多くの地域で地面がカチカチに 固い。ところが、パラクー市から遠くないマ レボル村のアラフィア・ワンル農場では、ト マトが勢いよく枝葉を伸ばしている。30ヘクタ ール（1へクタール＝1万平方メートル）に及ぶ この広大な貸付農地では、ベナン人が最も好 み、最も重要でもある野菜、トマトが栽培さ れているのである。 今は1月末の乾季で、真っ赤に熟れたトマト はポツポツ見える程度。多量の水を必要とする トマト栽培に、乾季は適した季節とは言えな い。それでも農場で働く25歳の農業技術者エス タシュ・W・アジェは「1日当たり平均1,750キ ロ収穫しています」と、満足そうに微笑む。ア ジェから100メートルほど離れたところでは、3 人の女性がトマトをいっぱい入れたバケツを青 い秤まで運んでいた。秤のそばにはすでに各々 35キロの重さの大きな籠が5つ置いてあって、 市場に運ばれるのを待っている。現在のとこ ろ、ユーロに換算して1籠7,60から9ユーロ強で 取引されているそうだ。 乾季でのトマト生産を支えているのは、太 陽光パネルと電動ポンプ4基から成る灌漑用水 汲み上げシステムである。アジェは地面に両 膝を突いて、微細な穴を開けた黒い点滴チュ ーブを見せてくれた。地中に縦横に張り巡ら せたこのチューブから農作物に水分を供給す る仕組みだ。ワンル農場では、農夫は1ないし 数ヘクタールの農地を借り入れでき、代わり に収益の10～20パーセントを納めることになっ ているが、こうしたシステムを利用できるよ うになったことは、関係者全員にとって素晴 らしい進歩である。 2018年からワンル農場で働くアンジェも、 以前のトマト栽培がどんなに過酷でお金もか かったか忘れることはできない。遠くのある 一点を指差して彼は言った。「あそこにある 井戸は、農場の心臓部です」。しかし井戸の 水を汲み上げるには、ディーゼル発電機が要 る。「農場の従業員が朝早くエンジンをスタ ートさせ、うまく回っているかどうかしょっ ちゅう点検しなければならなかったね」。毎 日エンジンを8時間掛けっぱなしだったので、 燃料代がすごい額になったこともある。「1日 に7万5000CFAフラン（西アフリカ諸国などで 用いられる共同通貨）以上払ったことが何回 もあったよ」と、アジェは回想する。これは 換算すると110ユーロ弱で、清掃人や日雇い労 働者の一カ月の収入を超える。もちろん、デ ィーゼルエンジンがなければ井戸から水を汲 めない。そのうちディーゼルオイルの供給が 逼迫するようになり、人件費と労働負担が増 加するなどの問題が浮上。結局、「利益が出 なくなってしまったんだ」とアジェは言う。 ディーゼル燃料に頼らない農業 そんな中、隣の数ヘクタールの土地を耕し ている農家が、灌漑用ポンプをソーラーパネ ルの発電で回していることを知った。そのソ ーラーシステムはうまく機能しており、大規 模な農場でもこの方式を取り入れられるだろ うと、ワンル農場の経営者は納得。港湾都市 コトヌーから車で約7時間ほどの距離にある国 内第3の都市パラクーに、早速車で向かった。 パラクーには太陽光パネル会社が数社あり、 北ベナン全域で事業活動を展開し、ソーラー エネルギー発電ポンプの設置と自家発電用ソ ーラーパネルキット一式の販売を手がけてい る、2002年創業のBRCE社はそのうちのひとつ だ。 ソーラーパネル、バッテリー、接続用ケー ブル、電球ソケットから成り、売れ行きが良 い小型で安価なソーラーパネルキットは、電 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

農 業 に お ける 新し い 働 き 方 革新的な営農 トップダウンとボトムアップから発信されるイノベーションの 相乗効果が、アフリカの持続可能な成長と食糧供給の改善を 加速させると、ZEFのオリバー・キルイは語る。 インタビュアー： アルント・フェ スターリンク キルイさん、アフリカの農業における技術革新、 デジタルイノベーション導入への意欲はいかがです か。 アフリカでは、開発を進める上でのイノベー ションの重要性がますます強調されていま す。最近のデータを見ると、あらゆるところ で農業分野の技術的、制度的およびシステミ ックな変革が大きく進んでいることがわかり ます。これは、過去10年間の農家の社会的、 経済的、技術的な進歩に著しく貢献しまし た。研究機関から発信されるトップダウン型 イノベーションと、農家から発信されるボト ムアップ型イノベーションの相乗効果は、持 続的な農業成長と食糧供給向上への大きな可 能性を秘めています。 イノベーションは何によってもたらされるので しょうか。 イノベーションの推進力は多数あります。デ ジタル化によって、多くの農家が農業や食品 のバリューチェーン全体に関する情報や、例 えば食料品の場合は価格や需要と供給、つま りその時々の市場の状況にアクセスできるよ うになりました。デジタル技術を通じた密な 相互連携によって、農家やその他のバリュー チェーン関係者が安定的に市場参加するのに 必要な資本に、容易にアクセスできるように なったわけです。また、気候変動への適応と 緩和の必要性も、イノベーションの重要な推 進力です。 農場の発展を妨げる要因は何ですか。 適切な職業訓練・トレーニングや種々の農業 関連技術へのアクセスが限られていること が、大きな障害となっています。農家は、ま ず自分たちの食料を確保できるようバックア ップしてくれるイニシアチブにアクセスでき ないことがしばしばです。異常気象や極端な 気象現象といった地球温暖化の影響は、農家 に壊滅的な打撃を与え、イノベーションによ る利益を水泡に帰してしまう。小規模農家に は、気候変動の影響を緩和する資源も力もな く、それからわが身を守ることすらできませ ん。さらに障害として挙げられるのは、適切 な農業融資や市場にアクセスできないことで す。農家が営農で実際に利益が得られるよう にするには、イノベーションをさらに有意義 なものに変えていかねばなりません。 イノベーションは、アフリカの農業におけるワーキ ングライフをどのように変えていますか。 様ざまなバリューチェーンを追う調査プログ ラムから得られたデータや種々の調査による と、農業関連イノベーションの導入は、農業 生産だけでなく農家の繁栄、特に所得と食糧 確保に好ましい、歴然たる影響を及ぼしてい ます。 アフリカの農家の繁栄は、世界にどのような恩恵を もたらしますか。 どの農家も技術革新に意欲的ですが、農業・ 食糧部門の実証済みイノベーションを実行に 移し、普及させていくには、支援が必要で す。アフリカの農家の営農能力を高め、農 業・食糧部門でのイノベーションへの投資に 力を貸していくならば、国連の持続可能な開 発目標（SDGs）のうちのいくつかの目標の達 成に近づくことができるでしょう。 オリバー・キルイ博士はドイツ・ボン大学「開発研究セン ター（ZEF）」の主任研究員 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

PURPOSE A L N AT U R A アンケ・パブリチェック アンケ・パブリチェックは、戸外で自然と触れ合いながら、やりがいのある仕事をするの が大好きだ。ダルムシュタット郊外に近年誕生した、権威ある環境賞を受賞した土壁建 築のオフィスビルを含むアルナトゥーラ・キャンパスは、そうした仕事のまさに宝庫。有 機農業経済学農学修士の肩書きを持つパブリチェックは、2019年にドイツの最大級オ ーガニック・自然食品スーパーマーケット「アルナトゥーラ」のキャンパス入居を機に、建 物以外の総面積5万平方メートルにも及ぶ広大な敷地の経営を担当するポストに就い た。大きな池、自然のままの小さな林、巨大な面積の無農薬菜園を始め、生態系バラン スを支える鳥、昆虫、微生物などあらゆる生き物に配慮し管理する職務である。ヘッセ ン州議会緑の党農業担当広報の安定したポストを捨てて、旧兵舎跡地で雨の日も風の 日も生態系維持の仕事に専念しようという人は、そう多くはないだろう。パブリチェック はキャンパス内のアルナトゥーラ本社ビルで働く社員が敷地内で働くイベントを年に１ 度催している。来年は鳥の巣箱をたくさん作ってあちこちに懸ける予定で、「こうした体 験を通じて皆さんが自然を見る目を一層養ってくれることを願っています」。

フラウン ホーファー 研 究 機 構 未来を発明する グローバルプレーヤー 自動車用エアバッグ、MP3フォーマット、量子コンピュー タ、グリーン水素等々、キーテクノロジー分野の多数の 発明・研究によって世界に知られる「フラウンホーファー」 とは、どんな機関なのか。 文：ティム・シュレ ー ダー D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

バルーンカテーテルの 光学検査：医療技術も またフラウンホーファーの 重要な研究分野だ 国際宇宙ステーション （ISS）に設置されたフラ ウンホーファーのセンサー システム：地上の農作物の 乾燥ストレスを検知する D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

い量子コンピュータやスーパーコンピュータ システムを開発しても、エネルギー問題がき ちんと解決されなければ、進歩はない。だか ら新しいエネルギー政策に加えて、私たちの エネルギー技術をさらに進化させていく必要 がある。EU加盟諸国との協力の下、欧州のエ ネルギー主権を確保することが目標だ」と、 ノイゲバウアーは語る。 水素という未来テーマ そこで目下特に大きな意味をもつのが、水 素というテーマである。フラウンホーファー には「水素ネットワーク」があり、マリオ・ ラグヴィッツ同ネットワーク・スポークスマ ンによれば、35の研究所が参加している。「喜 ばしいことに、私たちは水素の製造から輸 送、消費に至る全バリューチェーンの技術を カバーできる」。ラグヴィッツの言葉通 り、FHGには例えば、水の電気分解による水素 製造プロセスを最適化するための電解質実験 施設や、水素を酸素と反応させて発電する燃 料電池技術関連の開発施設群が揃っている。 水素ネットワークの研究者たちは、燃料電池 製造工程の自動化にも取り組んでいるとい う。将来水素の利用が進むならば、現在のよ うな手作業では効率的にもコスト的にも到底 追いつかないからだ。またケムニッツのフラ 未来の エネルギー 供給のための 技術開発を 推し進める 必要がある ウンホーファー工作機械・成型技術研究所 （IWU）では、「銀色マルハナバチ」の愛称を もつ特別な実験用燃料電池車が製造された。 これは、1940年代に構想だけで終わってしまっ た幻のレーシングカーを現代に甦らせたもの で、新しい燃料電池車のコンポーネントやコ ンセプトの実験台となる。 実用性を常に念頭に置くフラウンホーファ ーの研究者たちにとっては、エネルギー転換 による脱炭素に向けて水素が特に役立つのは どんな領域か、という問いも重要である。ラ グヴィッツによれば、水素を使う意味がある のは、他のグリーンエネルギー利用に適さ ず、二酸化炭素の排出削減ポテンシャルが大 きい領域で、化学工業や鉄鋼産業、船舶・航 空機・重量物運搬車による運輸などが代表的 だ。例えば鉄鋼業では今日、鉄鉱石から銑鉄 をつくる製銑工程で、大量のコークス（石 炭）が投入されている。FHGは鉄鋼会社ザルツ ギッターの低炭素化プロジェクトSALCOSの枠 内で、同社および他のパートナーとともに、 コークスを使わない水素による直接還元技術 の開発に取り組んでいる。 ラグヴィッツはさらに、水素を活用するため の大前提にも注意を促す。すなわち「水素経済 が十全に機能するためには、水素を輸送できな ければならない」。そのためのFHGの研究体制 はといえば、「インフラ設計でも材料工学でも、 必要とされるすべての専門知が揃っている」。 安定した電力供給に 実験施設 必要な条件を 研究するための マルチメガワット級 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

にならない速度で特定の課題を処理できる、 とされる量子コンピュータが実用化すれば、 高度な数学的問題を解いたり、化学・製薬分 野における新しい複雑な分子構造のモデリン グなどに役立つだろう。また量子通信は、情 報がハッカーに盗み見られるとすぐそれとわ かるため、特に金融保険業におけるデータ通 信の安全性を高めるのに向いているとされる。 未来を拓く量子コンピュータ フラウンホーファーでは現在、量子技術の 様ざまな基盤作りが行われている。なかでも 重要なのは、IBMとの協働作業である。同社 は2019年、世界初の商用量子コンピュータ 「Qシステム・ワン」を発表したが、そのド イツにおける運用を数カ月前から手がけるの が、7つのフラウンホーファー研究所からなる コンソーシアムなのだ。「われわれの課題 は、量子コンピュータがどのような分野の利 用に適しているのかを確かめること。従来の コンピュータに取って代わるものでないこと は、すでにはっきりしており、特定の複雑な 問題の解決に向いていると考えられる」と、 ベルリンにあるフラウンホーファー・オープ ン通信システム研究所（FOKUS）のマンフレ ート・ハウスヴィルト所長は話す。量子コン ピュータを日常的にプログラミングし利用で きるようにするには、先ずきちんとしたアル ゴリズムを開発しなければならない。稼働で きる状態にするのは途方もなく手間のかかる 作業で、多くのパートナーの参加が不可欠だ という。 イェーナのフラウンホーファー応用工学・ 精密機械工学研究所（IOF）所長アンドレア ス・テュナーマンが強調するところによると、 「そうした課題に取り組む体制が、ドイツは非 常によく整っている」。なぜなら「この国に は“連合方式”と呼ばれる研究制度があって、成 功の見通しがまだ定かでないような場合でも、 新テクノロジー開発のための助成が長期にわた って行われる」からだ。中小民間企業はそのよ うなリスクを単独では負えないが、国からの支 援の下であれば、研究機関と連合して粘り強く 開発に取り組める。FHGはこれまで、多数の連 合プロジェクトに参加してきた。「しかも大変 長期にわたって。連合プロジェクトは10年以上 続くこともあるが、その多くが最後に素晴らし い成果を収めている」。 そうした持久力のおかげもあって、フラウ ンホーファーは1949年の創設から70年余りの 間に、数々の新しいアイデアを成功へと導い てきた。開発に長い年月を要したのち、最終 的には世界標準となったMP3技術がその典型 である。 フラウン ホ ーファー 研 究 機 構 立 地 図 本 部 ミュンヘン、世 界 中 に 拠 点 を 置く イーストランシング ブルックライン ヨーテボリ グラスゴー ボルツァーノ ダブリン ブリュッセル ミュンヘン モスクワ ウィーン グラーツ エルコラーノ サンノゼ 出所: Fraunhofer プリマス ニューアーク ポルト リバーデール ブダペスト ラボン 北京 ソウル 東京 サンチャゴ・デ・チリ サンパウロ プレトリア ステレンボッシュ バンガロール アンパン シンガポール D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

ヴィネンデンの モデル地区完成 予想図：屋上には 菜園、中庭には職人 の店舗 豊かな緑：シュトゥ ットガルト中心部の ローゼンシュタイン 再開発地区に建設 予定の公園 スイス人建築家ホーファーの考えでは、い ま都市計画全般において発想の転換が要請され ている。「住む、働く、遊ぶのは違う場所でと いう従来の原則は、そう考える理由がなくなっ た現在、誤った原則でしかない」。この原則は 150年前の工業化初期、「工場が臭くて汚いも のだった時代の産物」であると言うのだ。 工業施設を郊外に追いやるのは時代遅れ そうした分離に由来する悪影響は多方面に 及ぶ。職と住の立地がしばしば遠く離れるば かりでなく、「いまある住居専用または工業 専用地域が、通常おそろしく退屈」なのも、 分離によるところが大きいとホーファーは見 る。フランクフルトの建築事務所ヨットが設 計したヴィネンデン·モデル地区の完成予想図 は、確かにそれとは対照的な活気に満ちてい る。屋上に菜園があったり、建物の中庭には 職人が店舗を構えていたり、住宅の間にも温 室があり、工房や工場の集まる一角の隣に は、地域カフェや別のコミュニティ空間も設 けられている。 IBA総監督がさらに指摘するのは、工場また は居住専用地域が単一目的のために造成され ることから生じる問題だ。例えば住宅需要が 急拡大したとき、工場地域を活用することは 難しい。「結果として空きスペースを常に抱 えることになってしまう。それでは未来都市 の構想にならない」。 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2 世界に類を見ないとされるその街区は、ベ ルリンでもニューヨークでもなく、南西ドイ ツの小都市ヴィネンデンに建設される。シュ トゥットガルトに近い人口3万人の町に誕生す るこのモデル地区では、住宅や店舗、オフィ ス、工房、工場が少し先の角を曲がった至近 に隣り合わせることになるだろう。労働·居住· 余暇のための場所を明確に分離し、特に工業 施設は郊外に立地させる、というのが一般的 な都市計画の原則だとすると、「生産的街区 ヴィネンデン」プロジェクトはそのまったく 逆を行く。 同プロジェクトは、2027年開催の「国際建 築展（IBA）シュトゥットガルト都市圏」（略 称IBA’27）に向けて進められる事業のひとつ。 「デジタル化・グローバル化の加速する時代 にあって、私たちはどのように暮らし、住ま い、働くのか」という、IBA’27のテーマをめぐ る都市計画コンペで優勝し、事業認定を受け た。IBA総監督アンドレアス·ホーファーによ ると、それは「工業や商業、居住、余暇の新 しい共生」を追求するもので、「私の知る限 り、この種の実験は世界的にも例がない」。

ラマンによれば、特に地下駐車場はこれまで 「持続可能性の観点から大いに問題があっ た」。何年かして駐車スペースの需要が低下 したとき、他目的に使うことがほぼ不可能だ からだ。「そこで都市計画も近年、長いこと 避けてきたこのテーマに取り組むようになっ てきている」という。未来の駐車場2.0は、カ フェやコワーキングスペース、町内工房の立 地ともなるだろう。また「駐車スペースがま ったく要らなくなった場合、新しい利用目的 に応じた改築も容易にできる」と、建築家フ ラマンは説明する。 建物や交通システムをどこまで状況変化に 適応可能なものにするかは、未来の都市にと って核心的な問題である。フラマンによれば 「これからは柔軟性が極めて重要になり、都市 計画も特定目的への従属から、高度に弾力的な 発想へとシフトしていかねばならない」。ま た、持続可能性の観点から「いま求められて ローゼンシュタイン再開発地区の モビリティハブは、文化活動や物流 の拠点ともなる いるのは、少なくとも100年はもつ建築への回 帰」であるとも。 暮らしがいのある都市を具現化 ローゼンシュタイン地区再開発事業の一部 はIBA’97に連動しており、シュトゥットガルト 都市圏のこれら未来街区プロジェクトに取り 組む発想豊かなパイオニアたちは、ただ青写 真を描くだけでなく、彼らのモデル地区を向 こう数年内に具現化しようとしている。「単 に議論したのではなく実際に造ってみせた、 と後で胸を張れるようにしたい」と、ホーフ ァーIBA総監督。「ヴィネンデンにせよ、シュ トゥットガルトにせよ、誰もがあと数年する と、気候にも人間にもやさしい未来の建物や 街区がどんなものか、身をもって体験できる ように」。 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

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飛 躍 的 イノベー ション の 有 力 候 補 高 空 風 力 発 電 機 ホルスト・ベンディクスは彼の開発した高空風力発電機なら、い まある最高性能の風車の10倍の出力を期待できると言う。高所 では常により強く安定した風が得られるからだ。経験豊かなエ ンジニアの考案した風車は、ベルト車を使ってタワーの足元に 設置された発電機を駆動する。この構造のおかげで既存のも のと同等の重量ながら、ハブ高さが250メートルにも達する風 車の建設が可能となる。タワーはコストを削減するため汎用鋼管 製とし、風を最適に捕捉できるよう回転する土台部を備える。 アルツハイマー 病 治 療 薬 ディーター・ヴィルボルトは、アルツハイマー型認知症の新し い治療手法を研究する生物物理学者。脳内の無害な単量体 （モノマー）タンパク質が凝集して、神経毒性の強いオリゴマ ー（低重合体）化する段階で投与することにより、モノマーを 安定化させるとともに、オリゴマーをモノマーに分解する 薬剤を開発した。試験管内実験や動物実験をクリアしたあ と、第Ⅰ相臨床試験もすでに成功裏に完了しており、アル ツハイマー病患者を対象とする第Ⅱ相臨床試験が2023年ス タートする。 マイクロフロ ー テ ー ション マイクロプラスチックによる海洋汚染問題解決の決め手となる のは、ローラント・ダマンによれば「マイクロフローテーション」 と呼ばれる新しい水浄化技術である。これは顕微鏡でなけれ ば見えないほど微小な気泡を大量に水に注入し、水中のほぼ すべての固体粒子を気泡に付着させた上で、水面に浮上させる というものだ。あとは水面に浮かぶ汚染物質膜を吸引回収す ればよい。ダマンはヴェーザー川で行った実験で、99.7パーセ ントのマイクロプラスチックが回収できることをすでに示して いる。 ア ナロ グ コンピュー タ デジタルコンピュータがその物理的限界に達しつつあることや、多 量のエネルギー消費が問題となっていることから、情報工学者ベ ルント・ウルマンはアナログコンピュータを再評価し、新たに発展 させるべきであると主張する。それは膨大な量のデータを処理で きるのに、30ワット電球程度のエネルギーしか消費しない人間 の脳に似ている。ウルマンは現在、回路構成を自由に変更できる アナログコンピュータ用チップの開発に取り組んでいる。制御は引 き続きデジタルコンピュータが担うことになるため、彼が目指すの は両者を組み合わせたハイブリッドシステムということになる。 D E U T S C H L A N D E D I T I O N 2 0 2 2

I N B O N N O N L I N E & JUNE 20–21, 2022 Shaping tomorrow, now The 15th DW Global Media Forum will explore opportunities to foster resilient journalism in times of crisis and capacitate civil societies for the future. N E W S L E T T E R Stay up-to-date on the international and interdisciplinary conference hosted by DW. dw.com/gmf #dw_gmf dw.gmf DW_GMF DWGlobalMediaForum DW Global Media Forum M A I N P A R T N E R S C O - H O S T E D B Y P U B L I C P A R T N E R S